カード

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マリさんは泥棒だ。
郵便受けに僕宛の手紙が届いていた。弟の名前で差し出されたバースデーカードだ。たぶん母に書かされたんだろう。
部屋に帰って、僕は弟に電話をかけた。弟は前と変わらない様子だった。母は外出しているらしく、話さないで済むと思うと肩に入っていた力が抜けた。
冬の長い夕方が終わり辺りが真っ暗になった頃、マリさんが帰ってきた。僕の顔を見てマリさんはぽろぽろ泣いた。
あぁ、だめだよ。今夜はとても優しくなれない。心が削られたとこなんだ。
マリさんは脇に抱えた荷物を取り出した。それはゴッホの向日葵の絵だった。
「こんな冬に向日葵?」
「夏が懐かしくなって」
そうかなぁ、夏が恋しいなら花瓶に挿した花の絵じゃなくて風景画を見るけどな。
「どうして泣いてたの?」
「えっ?泣いてたのはマリさんだよ」
「そうだった?」
知らないうちに僕は笑っていた。マリさんといるのは向日葵といるのとおんなじだ。
ファンタジー
公開:18/12/19 15:48
更新:18/12/20 16:30

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