父の口癖

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「ウチには貯金が一千万ある」
それが父の口癖だった。僕はそれを信じたことがない。
だって今日も父は安い肴を齧り安い酒を飲む。金があるのならもっといいものを食べればいいのに…
今日もウチの夕食は質素だ。家だってあちこち痛んでいる。金があるようには到底思えない。

ある日、父が宝くじで1千万円当てたことを知った。
翌日、父がその金を全額寄付したことを知った。
「ウチには貯金が一千万ある。だから当選金は必要な人に使ってもらうことにした」
そんな父に母は苦笑いを浮かべ、僕は激怒した。
それから父とは口をきいていない。僕は高校卒業と同時に家を出た。

父が亡くなったと知り、葬儀の為に帰って来て驚いた。
多くの弔問客が父の不幸を悲しんでいた。
父の世話になった人達は「人こそ財産だ」とよく聞かされたと涙ながらに笑っていた。
これが父の言っていた貯金の正体。
それに気付いた僕は今更父の偉大さを思い知った。
公開:18/12/16 18:42
更新:18/12/17 18:47

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