冬桜、ひらり。-中~フラワーネットワーク・アナザー④

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啓翁桜(けいおうざくら)を一束買い、墓参りに。
雪を被った『美咲家』の字を払い、線香を点す。手を合わす妻に、中学生だった12年前の影が過ぎる。

俺を生んで死んだ母の顔を知らない。
家に遺影すら無く、作家の父は、母の名前も滅多に口にしなかった。食えない時代、駆け落ち同然に故郷を出、早々死なせた負い目だったか。当時の俺には、ただの冷血に見えた。
幼稚園の頃、淡い恋を寄せた先生と、父が再婚した。
『6つのガキに遠慮する気はない』
笑う声に憎悪が湧いた。以来、父からも義母からも目を背けた。義母に似た幼馴染に2度目の恋をした時も、親友に譲った。父の真似は御免だと卑怯に言い訳して。
高校卒業後、家を出、縁あった花屋で働いた。10年間、ほぼ家に寄り付かなかった。

結婚報告に帰った日、ドア越しの掠れた『おめでとう』に、血は争えないと思った。
向き合う力をくれた彼女と、父と義母と。次は皆で来れると良い。
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公開:18/12/16 16:00
更新:19/03/03 18:57

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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