冬桜、ひらり。-上~フラワーネットワーク・アナザー④

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「冬の桜を見よう」
ようやく敬語を使わなくなった夫が、1年遅れの新婚旅行に選んだ、山間の町。彼を生んで亡くなった、お母様の故郷だと聞いた。

それは、不思議な光景だった。
見渡す限りの雪田に、背丈程の樹が一面に立ち並ぶ。
12月半ば、開いた桜は無く、農家の方が、蕾の固い枝を刈って艝に積む。
「啓翁桜(けいおうざくら)。ここの特産だよ。10ヘクタールに1万2千本。温度調整して真冬に咲かせる。一度切ると5年収穫出来ない。時間も手間も掛かる重労働だ」
枝を運ぶ姿は年配が目立つ。店頭から見えない作り手の苦労。

――ガラス張りの部屋でバケツに並ぶ枝は、蕾が膨らんでいた。鮮やかなピンクの小ぶりな花。
「寒さに当てた枝をお湯に浸けてから、20℃前後で2、3週間。クリスマス頃に出荷が始まる」
「促成開花ね」
「人の手でつむぎ出す春。俺は美しいと思う」
普段は子供っぽく映る横顔が、大人の男の顔をしていた。
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公開:18/12/16 16:00
更新:19/03/03 18:56
富山市山田(旧婦負郡山田村) 啓翁桜の話

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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