Purple Hazeの怪物

非喫煙者、禁煙者お断りの店があると噂で聞いた。分煙・禁煙へと世間では舵きりが行われているにも関わらず、そのお店だけはその流れに逆行していた。しかし、酒と料理は上手いらしい。禁煙していた俺は試しにその店に立ち寄ってみた。
洒落た装飾の入り口には特に書かれていない。扉をあけて中に入ると落ち着いた照明の店内に何人か客が入っていた。煙草の煙がふんわりと薄く伸び、横一線に漂っていた。しかし煙草独特の香りだけを残して、毒気を感じない。煙の行く先には、それを糸のように手繰り寄せる生き物がいた。樹リスのように小さな猿だ。器用に煙を手繰り寄せて、ふわふわのパンみたいにして美味しそうに食べる。
「いつの間に居着いてたんですよ」
立ち尽くしていた俺に店長が声かけた。
「餌やりたくてみんな煙草吸うんです。煙なんか食って何が美味しいんでしょうね」
そう言いながら店長は煙草を美味しそうに吸い、俺にも一本渡してくれた。