走馬灯

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 宵の口、アパートの階段にはもう雪が積もり始めていた。慎重に二階に上がったのに、ふと後ろを振り向いて滑った。全部の段に後頭部を強打して落ちながら、死ぬんだ俺、と諦めた。
 案外死なないもんだ。頭よりお尻に激痛が残って、仰向けのまま煙草に火を点けた。外灯が寒さで明滅している。そういや走馬灯が見れなかったな、と思った。
 一本目を吸い終える。息と煙と雪、三つの白が宙で溶け合いながら、宵を深めていく。
 二本目を吸い終える。雪の粒が少しずつ大きくなって、静かに辺りの色を隠していく。
 三本目を吸い終えると、外灯がようやくはっきり灯った。煙草に火を点けるたび、浮かんでくるのは今すぐ殺したくなるような糞野郎の顔ばかりだった。
 俺は死に損なった。俺も糞みたいなあいつらと同じ顔をして、糞以下の俺を殺してやりたい。このまま白い暗闇にぜんぶ覆われて、俺の殺人が誰にも見つからなければいいのに。
その他
公開:18/12/16 00:52
更新:21/01/23 00:02

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