きな臭い天体望遠鏡

2
5

「そこの兄ちゃん、星は好きかい」
道の脇に座る男が、唐突にそう言った。
「まあ、」
「それならこれをやろう」
そう言い、小脇に抱えていたアタッシュケースを開けた。
「天体望遠鏡だ。流石にきな臭いとか思うだろうがな、ものは確かだ」
男に話の流れをとられ、家に着いた俺の手にはずっしりとしたそれがあった。
受け取ってしまったものは仕方がない。疑心暗鬼ながら組み立てた。不思議な匂いがするが、綺麗だし、まだ新しいのだろう。
なんと美しい。肉眼では見えないほどに鮮明な夜空。男の言った通り、ものは確かだった。
すっかり天体観測にはまってしまった。星座も惑星も、今までは興味すらなかったのに。今やもう、空を見ないのは雨か曇りの日くらいだ。
今日はお月見だ。
風流だかに便乗して、団子を買って、鮮明な月をみた。
そして、はっと気がついた。
この天体望遠鏡は、きな臭いものじゃない。
きな粉臭いものなのだ、と。
その他
公開:18/12/16 21:37

彩見 唯

日本語、特に言葉遊びが好きです。
twitterでは「りーまーむ (@Cogito_live)」というアカウントで短歌を詠んでいます!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容