眼鏡をかけて

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「あと一ヶ月半だったのにね」
不意に娘が呟いた。
「ほんと肝心な時にはいねぇよなぁ」
四十九日で帰省している息子も、ため息まじりに呟く。
「四十九日が結婚記念日だなんて、あの人らしいじゃない?」
結婚して五十年。私は夫にこれといった不満はなかった。
そんな夫が先月亡くなった。あっという間の出来事だった。
「いつもお母さんを悲しませてばっか」
娘はそう言うけど、私は思いのほか落ち着いている。
「でも母さん泣かなかったよなぁ」
息子の言う通り。お通夜でも、火葬場でも、お葬式でも、不思議と涙は出なかった。
「あの人の顔、好みのタイプじゃなかったからかしら?」
「なにそれー」
「ひでー。あ、そうそう。これ、俺らから」
二人から手渡されのは金婚式祝いだった。それは夫とお揃いの銀ぶち眼鏡。
私は眼鏡をかけ、鏡を見た。

「やだ。私、あんたの顔に似ちゃってる」

鏡に映ったその顔が溢れるもので、揺れた。
その他
公開:18/12/14 23:30
家族

壬生乃サル

まったり。

2022年…3本
2021年…12本
2020年…63本
2019年…219本
2018年…320本 (5/13~)

壬生乃サル(MiBU NO SARU)
Twitter(@saru_of_32)

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