生まれる前

臨月を迎えた妻のお腹に耳をあてると、心地よい音が聞こえる。

くせになって毎日続けていると、「ずるいなあ」と妻が言う。なるほど、自分のお腹に耳はあてられないものな、と考えていたら思い出した。そうだ、これってあの音に似ている。

次の日曜日、妻を連れて海へ行った。さっそく手頃な大きさの巻き貝を探しあてた。シーズンを過ぎた海岸に聞こえるのは、寄せては返す波くらい。妻は大きなお腹を大事そうに抱えながら腰を下ろし、何も言わずに巻き貝を耳にあててくれた。

「ふむ、これを聞いていたわけだね」

僕に言ったのか、お腹の中の子に言ったのか分からなかった。妻は目を閉じて、貝を耳にあてたまま横になった。つい一昨日、病院で見たエコー写真そのままの格好に、思わず頬が緩んだ。そして僕も隣にごろんと寝そべって、やっぱり妻のお腹に耳をあてた。

みんな赤ちゃんみたいだな。

もうじき。
生まれるのはきっと、家族だ。