中身屋

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『当方中身屋 よろず中身承ります』
 飲み屋の連なる一角に、こんな看板を掲げた店があった。暖簾をくぐると、三和土の奥の座敷に、和装の若い男がかしこまっている。壁にも棚にも、木製の作業台にも、商品はおろか、張り紙一枚ない。
「ここでは、中身を商うのだろう?」
「よろず中身承ります。ただ、商うのは物品のみでございます。『本心』などは、お断りしております」
「卵の中身、といえば白身と黄身が出てくるわけだね」
「さようです」
「では、殻つきの卵がほしい時は?」
「スーパーをお勧めいたします」
「『夢の国』のあいつの中身なら?」
「あれはああいう生き物だそうですので… 内臓一式ということに」
「ふん。大体わかった」
「ありがとうございます。今回はどういったものの中身を?」
「眼鏡の中身を頼む」
「少々お待ちください」

 代金は3024円だった。年会費無料だというので、私は会員証も作ってもらった。
その他
公開:18/12/14 12:13

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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