何気ない一言

ある活字中毒の女が、ある男に言った。
「私、文字に埋もれて死にたいわ」

それは、何気ない一言だった。女は、その言葉に深い意味など、込めてはいなかった。そして、男のことも、なんとも思っていなかった。

しかし、男はそうではなかった。男は女を愛していた。それはそれは、狂おしいほど…。男は、女の望みを全て叶えたいと思っていた。だから、男は、女の“何気ない”一言を鵜呑みにした。

男は、片手で持てるくらいの石をたくさんたくさん…買い集め、そこに文字を彫り始めた。

買い集めた石、全てに文字を彫ると…男は女の元に向かった。



数日後、女の遺体が発見された。
女は、浴槽のなかで、たくさんの石によって押し潰されて死んでいた。


その全ての石には、“愛”の文字が…。