塞ぎの元

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「あーあ」
 つんのめるように、三声のバイオリン曲が鳴っていた。私は、澄み渡る空に、胡散臭さを感じた。
「あと、五分は寝ていられた」
 ひどく塞いでいたので、私は「塞ぎの元」を突き止め、早々に祓ってしまおうと考えた。

 何か、面白いことを考えついて、必要ないと言った女だ。顔も思い出せる、知らない女…

 私は、三台の車にぶつけられそうになり、自転車の年寄りとOL二人を轢きかけて、会社に五分遅刻した。

 営業に出る途中、真ん中がスリガラスになっている応接室に、薔薇状星雲のような痣のある右ふくらはぎを見た。見覚えのある痣だった。だが、その持ち主に会ったという記憶はない。

 苦情処理後の歩道橋で、バミューダを履いた右足の、くるぶしからズボンの中にまで達する一直線の縫い目がケロイド状になった老人を追い抜いた。

「足か」
 その夜、私は、新たな「塞ぎの元」に縛られる明日を思い、憂鬱だった。
その他
公開:18/12/15 10:42
更新:18/12/15 11:03

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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