冬の影

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 ペットボトルの水。出窓の前にぼんやりと立って、あなたは飲んでいます。千切れた蜘蛛の巣が、中空にキラキラと輝いています。
 風がなければ、暖かな日和ではありますが、冷蔵庫から取り出したばかりの水を、むせながら飲むほどではなかったはずです。しかし、無性に咽喉が乾くのですね。あなたには、水しか見えていないのです。
 低く這う冬の日差し、ストーブが消えた食堂。ラベルのないペットボトルの凹凸が、出窓越しの光を浴びて白く輝いています。あなたはペットボトルの形をした水を、懸命に、咽喉の形に注ぎ込んでいると思っています。そうしてあなたは、寒さに震えているでしょう。
 全てを飲み干したあなたが、手にしている空のペットボトルの底から、びっしょりの長い手足に糸を纏わせて、黒と黄色のだんだら模様に朱を散らした、一匹の女郎蜘蛛が這い出していきます。
 あなたにはそれは、忍び寄る冬の影にしか見えないことでしょう。
その他
公開:18/12/13 10:32

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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