「IT大浴場」

その銭湯の男湯には『IT大浴場』という暖簾が掛けられていた。
「以前は『混浴OK』って暖簾だったんですよ。女湯に男はまずいが、男湯に女が入るには自己責任だから問題ないだろって話でね。これが意外と人気あってねぇ。ただ、このご時世だ。色々あって閉鎖に、ね」
番台さんが申し訳なさそうに語り始めた。
「そこで新たに考え出したのが、その『IT大浴場』さ」
番台さんが手招きするので近くに寄ると、俺の耳元で囁いた。
「男湯の壁面に富士山が描いてあるだろ？　あれ実は3Dホログラフィックディスプレイなんよ。3Dホログラムによって再現されたナイスバディの女体が映し出されるのさ」
それは良いの、か？
「これで若い男性客が増えるぞ、と思っていたんだけどねぇ」
番台さんのトーンが下がる。
「最近の若者はダメだ。草食系って言うの？　いい年した大の男が欲情一つしやがらねぇ。まさに『IT大浴場』ってな」
お粗末様でした。