男同士の約束

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親父が死んじまった。小柄な身体が庭の木にぶら下がってた。お袋は長身を折り曲げ泣きじゃくってたが、葬式の時にはもう気丈に振る舞ってた。「ねえちょっと」遺品整理の際、箪笥の前で膝をつくお袋に呼ばれた。色鮮やかな晴着が見えた。
「父さんね、二十歳頃までは女らしい格好してたのよほら」成人式の写真も見せてくれた。少し古びた写真の中で、今目の前に畳まれてる綺麗な晴着を着た親父と、スーツ姿のお袋が肩を抱き合い微笑んでた。
「来月の成人式にどう? 父さん、ずっとあんたに着て欲しいって・・・」
俺は高校出て以来女の格好は一切していない。親父は遺書に(父親)として生きる自信がない云々と書いてた。俺には普通の女として生きて欲しいとも。「たまには親の言う事を聞け!」「遺言くらいなら聞いてやるよ!」生前親父とよくやり合ってたな。親父、この着物は着てやるよ。男同士の約束だ。
青春
公開:18/12/14 00:08

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