テレビさん

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大晦日の夜、そばを食べながら、俺ら家族は各々スマホをいじっていた。テレビでは紅白歌合戦が流れてる。
「私の話を聞いてくれ」
急にテレビがスクッと立ち上がった。いつの間に画面はゆく年くる年になり、ゴォーンと鐘が鳴る。
「今まで私は家族の中心だった。帰るとまず誰かがスイッチを入れ、ご飯を食べながら皆が私を見た。話題の中心は私から発信するニュースやドラマだった」
テレビはいつの間にか生えた腕を広げた。
「今は各々が好きなものを見て勝手に笑い、家族はバラバラ。もう私の力で家族を繋げなくなった。しばらくは海外で充電したい」
テレビはコードをまとめて出て行った。がらんどうのリビング。俺らは顔を見合わせる。なあ、まだ見たい番組があるんじゃないか。正月のお笑いや駅伝や。家族で同じものをみて、一緒に笑いたい時もあるんじゃないか。
「待てよ」
親父が青春ドラマみたいに叫ぶ。それを合図に俺らは走り出した。

 
その他
公開:18/12/11 14:42

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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