香り

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マリさんは泥棒だ。
ティーカップから香りがたちのぼるカフェで、マリさんにはケーキセットが、僕には「本日の紅茶」が運ばれてきた。
手を伸ばせばすぐに届く、左隣に座っている女の人の鞄をマリさんは狙っている。その中にアトマイザー、香水瓶が入っている。
世界で一番優しいユリの香りが閉じ込められている。
昨日、訪ねた友だちの家で猫がアトマイザーを鞄に落としてしまったのだ。
大事な人からもらった香りの最期の最後の宝物だった。
女性が窓の外に目を向けた隙に、マリさんは香水瓶を掠め取った。
「どんな香りが好き?」
マリさんに訊かれても僕は正直にこたえられない。
「食べ物の匂いかなぁ」
とお茶を濁した。
ファンタジー
公開:18/12/11 12:53
更新:18/12/11 21:11

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