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家までの最後の信号機の赤は長い。その先にもう、家の二階の明かりが見えているのだが、必ず二分は止められる。片側四車線の幹線道路と、一車線の一方通行道路との関係から考えれば、無理もない時間差なのだったが、この時間、幹線道路の交通量はほぼゼロだ。それなのに、足止めを喰らっている。煙草を一服するほどの時間はなく、ただ信号を睨んでいるにしては長すぎる。だから私は、ギアをニュートラルに入れて、サイドブレーキを引き、シートを倒してぼんやりと、フロントガラス越しの夜空を見上げることにしている。
今夜もいつものように、信号は赤だった。私はいつものように、シフトレバーとサイドブレーキを操作して、シートをガクンと倒した。そうしたら、助手席の後ろの、鼻と鼻が触れ合うくらい近くに、顔があった。強い芳香剤の香りに、吐き気がする。
信号が青になる。だが、私はシートを起こせない。信号は、黄色から、長い赤に変わる。
今夜もいつものように、信号は赤だった。私はいつものように、シフトレバーとサイドブレーキを操作して、シートをガクンと倒した。そうしたら、助手席の後ろの、鼻と鼻が触れ合うくらい近くに、顔があった。強い芳香剤の香りに、吐き気がする。
信号が青になる。だが、私はシートを起こせない。信号は、黄色から、長い赤に変わる。
ホラー
公開:18/12/11 11:58
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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