幸せな誤読

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 デビュー作は、父の話を書いた。そのせいか読者や編集者から、素敵なお父様ですねと言われる。だが、あれは俺の父を書いたものではない。こんな父であってほしかったという切実な願いを書いたものだった。 
 人の話を聞かず、自分勝手な父。小説家になると宣言したときも激怒された。いつか分かりあえたらと思っていたが、もうそれはかなわぬ夢となった。父は死んでしまったからだ。
 遺品を整理しているときだった。本棚に、俺のデビュー作を見つけて青ざめた。どうせ読まないからと、好きなことを書いたのに。
 本には封筒が挟まれていた。「小説家になった我が息子へ」と表に書いてある。
 中を開いて思わず吹きだした。そこには『この本を読んで親の愛情がちゃんと伝わっていたことがわかって、嬉しかった』と書いてあったのだ。さすが父だ。最後まで、自分勝手な勘違いをして逝ってしまった。
 俺は涙が出るまで、ずっと笑い続けた。
その他
公開:18/12/12 14:17

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