ヤコブの梯子

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 チャコールグレイの空と、霜に覆われたアスファルトとが、シンクロしていた。北斜面の峠道に閉ざされる。ヒーターの調子が悪い。フロントガラスが曇る。カーブの減速塗料の振動、退屈な空と道。
 泣けなかったな…
 コツコツという振動。錆びたカーブミラーは灰色に塗りつぶされている。クラッチが滑り、後輪が流れる。
 小さくて薄い肩だった。
 暖気不足か、バッテリーか、プラグの劣化か、回転が不安定だ。
 何処で間違えた?
 右カーブ。曲がりきれないダンプと鉢合わせる。
 何時からだ?
 ブレーキ。そして間髪入れずアクセルを踏む。カウンターステア、そして、しゃくるように右へ。ギアを落とす。
 終わったのか?
 クラッチをつなぎ、タイミングを計る。リアを路肩のラインに添って流し、次の左カーブで車線に復帰する。右のドアミラーがない。
 失ってしまった… 
 南に展望が開けると、目の前に、ヤコブの梯子があった。
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公開:18/12/12 10:43
更新:18/12/12 10:59

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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