月が明るくて星の見える夜-sideB

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エンターキーを押した後、空白が落ちる。
作業に没頭した頭が切り替わり、いつの間にか一人だったのを知らされる。

残業組も帰ってたか。
だだっ広い事務所が明るい程、窓の外は塗り潰した様に黒い。音の切れた隙間に滑り込む孤独を紛らす為、わざと声を立てる。
「さて、帰ろうか」
コーヒーの残りを呷り、手探りでスイッチを弾く。前を向いたまま通りすがるのが、もう癖になった。


玄関で鍵を締め、上げた視界に蟠る闇。
今も馴染めないが、人工電飾から解き放たれた夜が、生気を取り戻していく過程を辿るのは、案外嫌いじゃない。

ああ、今日は満月だ。
ぽっかり浮かぶ光が思いの外に強く、それでいて星を邪魔しない。
目が慣れるに従って増える点を数えながら、懐かしい声が過ぎる。
『大変だね』
『でもね、疲れた日は敢えて星を見に行くんだよ。そしたらまた明日頑張れる』

怪訝そうに首を傾げた彼女も、今、同じ星を見てるかな。
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公開:18/12/09 07:30
綿津実さん作 月が明るくて星の見える夜 逆視点でお送りいたします

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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