蛍雪(けいせつ)

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また起きている。
眠りが覚めて手洗いに立った未明、雪は、斜向かいの窓に蛍を見た。
凍った硝子の奥、水浅葱のカーテンから漏れる四角い白は、弟の蛍(けい)が発する光。
体調を慮る両親に中断されるのを嫌い、蛍は零時に照明を落とす。液晶を頼りに、手垢じみた辞書に目を凝らし、一心不乱に世界を綴る背中が、雪には痛々しくも空恐ろしい。

『ねえちゃん、よんで』
覚束ない舌。絵本を抱えた手。
布団に潜り、懐中電灯を頼りに頁を捲った。
詩や散文を認め、無邪気に競って披露した。
――どこで歯車が狂ってしまったのか。

『姉さん、……もう書かないの?』
何気なさを装った声で、微笑った。
夏休みの課題図書。漢字を問われ、辿った指が当たった。
ふと重なったそれが既に『男』の容をして、反射的に払った時の、竦めた息と、傷付いた眼。


書かない事に逃げた雪と、書く事に逃げた蛍。
向き合えないまま、今も互いに独りでいる。
青春
公開:18/12/08 18:56

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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