蛍雪(けいせつ)
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また起きている。
眠りが覚めて手洗いに立った未明、雪は、斜向かいの窓に蛍を見た。
凍った硝子の奥、水浅葱のカーテンから漏れる四角い白は、弟の蛍(けい)が発する光。
体調を慮る両親に中断されるのを嫌い、蛍は零時に照明を落とす。液晶を頼りに、手垢じみた辞書に目を凝らし、一心不乱に世界を綴る背中が、雪には痛々しくも空恐ろしい。
『ねえちゃん、よんで』
覚束ない舌。絵本を抱えた手。
布団に潜り、懐中電灯を頼りに頁を捲った。
詩や散文を認め、無邪気に競って披露した。
――どこで歯車が狂ってしまったのか。
『姉さん、……もう書かないの?』
何気なさを装った声で、微笑った。
夏休みの課題図書。漢字を問われ、辿った指が当たった。
ふと重なったそれが既に『男』の容をして、反射的に払った時の、竦めた息と、傷付いた眼。
書かない事に逃げた雪と、書く事に逃げた蛍。
向き合えないまま、今も互いに独りでいる。
眠りが覚めて手洗いに立った未明、雪は、斜向かいの窓に蛍を見た。
凍った硝子の奥、水浅葱のカーテンから漏れる四角い白は、弟の蛍(けい)が発する光。
体調を慮る両親に中断されるのを嫌い、蛍は零時に照明を落とす。液晶を頼りに、手垢じみた辞書に目を凝らし、一心不乱に世界を綴る背中が、雪には痛々しくも空恐ろしい。
『ねえちゃん、よんで』
覚束ない舌。絵本を抱えた手。
布団に潜り、懐中電灯を頼りに頁を捲った。
詩や散文を認め、無邪気に競って披露した。
――どこで歯車が狂ってしまったのか。
『姉さん、……もう書かないの?』
何気なさを装った声で、微笑った。
夏休みの課題図書。漢字を問われ、辿った指が当たった。
ふと重なったそれが既に『男』の容をして、反射的に払った時の、竦めた息と、傷付いた眼。
書かない事に逃げた雪と、書く事に逃げた蛍。
向き合えないまま、今も互いに独りでいる。
青春
公開:18/12/08 18:56
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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