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 山頂の天文台から海浜公園までの坂にガス灯が並ぶ。その下を、背丈の三倍もある槍を担いで歩く老人のポスターを、見た記憶があった。
 何者でもなくなってしまった僕は、ネットカフェでその道を探し続けて、ふるさと納税のサイトに『星と港、ガス灯煌くY市』という記載を見つけた。僕は、ATMの開くのを待って、その町までの片道切符を買った。
 駅に到着したのは昼過ぎで、そこから坂道まで、晩秋の、車もまばらな国道脇を、三時間歩いた。
 天文台が夕日に赤い。道の左側のガス灯が、山頂から一つ一つ灯ってくる。
 老人が、ガス灯下部の蓋を、奇妙な鍵で開いてコック捻る。続いてレバーを押し下げると、ホヤの一部が開く。そこに槍の先端を突き入れると、ガス灯がボウと灯る。
 やがて灯夫は、僕の前をゆっくりと横切って、右側のガス灯を灯しながら、坂を上っていった。
 山頂に最後のガス灯が灯った時、僕は、自分が何者なのかを知った。
青春
公開:18/12/08 11:25
更新:18/12/08 18:04

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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