ニュートラル・ラヴァー

私が恋した人は、友人のお父様でした。
穏やかな声。優雅な所作。綺麗な笑顔。総て完璧でした。父を早く亡くした私は、友人を訪ねる度、羨ましくてなりませんでした。
友人のお母様は研究者で、いつも画面越しに真紅の唇で笑うばかり。私は嫉妬を忍び、その家へ通い続けました。

やがて募る想いに負け、私は彼に恋を告げました。
『僕は、肉体的に人を愛せません』
彼の返事が呑み込めませんでした。
なら奥様の存在は。二人の子供である友人は――
――綺麗な、淋しい笑顔。


私は冷笑する奥様と罵倒する友人から彼を奪いました。
幸せでした。形だけの夫婦でも、隣にいられれば幸せでした。
なのに、また私は欲に負けました。注げど注げど返らない愛に限界が訪れ、

ある夜、隣に眠る彼を刺しました。
バチッ！
稲妻が私を貫き、彼の『亡骸』に倒れた私の眼に、画面を流れる女性研究者の名前と、最新ＡＩ誕生のニュースが映り込みました。