幻の海と手のひらの本

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目の前に広がる青い海。
そこには小舟が一艘。
ゆらりゆらり揺らめく小舟の上で、一人の老人が、私に手を振っている…。

あれ?私はどこにいるんだっけ?
あ、そうだ。 学校帰りの駅のホームだ。
でも、今見えているのは…。
そう思った刹那。視界は揺らぎ、青い海も、老人の姿も…一瞬にして消えてしまった。

見えるのは、いつもの逆ホーム。
月明かりが、人々の疲れた顔を照らしていた。

手のひらには先程、読み終えたばかりの、ヘミングウェイの『老人と海』。

私は、海を見たのだ。
老人が戦ったあの海を…。



だから、やめられない。
本を読むことを。
だって、本を読むことで、たくさんの世界を見ることができるのだから。
例え、見たものが幻だったとしても。それは、私の中で、ずっと輝き続ける。


手のひらには本を。
次は、どんな世界が、私を待っているんだろうか?
さぁ、本を開こう。
その他
公開:18/12/10 19:15
更新:20/12/22 15:59
記念すべき30作目

すみれ( どこか。 )

書くこと、読むことが大好きな社会人1年生。
青空に浮かぶ白い雲のように、のんびり紡いでいます。
・プチコン「新生活」 優秀賞『また、ふたりで』
・ショートショートコンテスト「節目」 入賞『涯灯』



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