一日だけのデート

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12月に入って、街はすっかりクリスマスムードだ。
ショーウインドウの前に、どこか見覚えのある人がいた。
「お父さん?」

父は15年前に他界した。
高校生の時、進路の事で大げんかをした。ほとんど口をきくことはなかったから、何を話せばいいのか分からない。

「ここは寒いし、暖かい場所に行こうか」
近くのコーヒーショップに誘った。

「コーヒー、飲めるようになったんだ」
コーヒーは苦手だと言って、ビールばかり注文する人だったのに。

「向こうもこういう店が増えたから。茶飲み友達も出来たよ」
「ひょっとして、その中に好きな人がいるの?」

少し間を置いて、父は言った。
「そろそろ帰る時間だから」

うまく誤魔化されてしまったが、仕方がない。私たちは店を後にした。

帰って仏壇に手を合わせると、父の写真がそっとウインクした。
「今日のこと、母さんには内緒だぞ」

分かってる。二人だけの秘密だよ。
ファンタジー
公開:18/12/07 11:39
更新:18/12/07 16:51
家族

ろっさ( 大阪府 )

"Plain words, honest hearts."ことばもこころも飾らない

誰かのこころに届く物語を綴っていきます。

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