Toooth！

「今年の年末商戦は我が社の命運がかかっている！君たち一人一人の働きがーー」
そう話す部長だが、どうも話に僕は集中できなかった。何故なら部長の歯に何か挟まっているのが見えたからだ。朝ごはんだろうか、眠気覚ましのガムだろうか。いや、違う。どう見てもすっぽんだ。部長の出っ歯に、しっかりスッポンが噛み付いていた。
「お言葉ですが、部長」
言い返すエリート営業員の田中君の八重歯にはぬたうなぎが噛み付いている。スッポンは激しく歯をガリガリし、ぬたうなぎはぬるぬるしていた。
「しかし前年度は」
生え抜き営業マンの重里さんの臼歯にはヒルが噛み付いてチューチューしていた。
「君はどう思う？」
突然話を振られて、僕は奥歯に物が挟まったように口籠った。
ーー違う、僕は確信した。僕の奥歯に何か噛み付いている。
朝の味噌汁に入っていたアサリの貝殻が歯に噛み付いていた。
『僕の意見としては』
歯が会議に参加しだした。