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私は精神科医だ。
50代の男性が不眠を訴え受診した。
くたびれたサラリーマンといった風貌の男は砕けた口調で語った。
「家庭での立場がなくてね、お小遣いが月3万円しかない」
「娘が思春期で話してくれない。こんなに頑張っているのにリスペクトが足りないんだな」
うんうんと相槌を打ちながら「よくある話だ」と思いつつ睡眠薬を処方した。
男は毎月来院した。家族に対する愚痴は相変わらずであったが、カラッとした笑顔で言うので「優しい父親なのだな」と思っていた。
1年経った頃、男性の母という老女がやってきて、こう言った。
「この度はお世話になりました。息子は先日首を吊って亡くなりました」
「俺は、うつを見落としていたのか……」と無力と責任を感じながら、お悔みを伝えた。
「奥様やお子さんは悲しんでいるでしょうね」
母は目を丸くした。
「息子は未婚です。嫁や子供なんていやしませんよ。ずっと私と二人暮らしです」
ミステリー・推理
公開:18/12/07 20:05

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