待月の橋桁に還る

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寝待月の月明りを三巡水面に吸わせると、次の新月の晩、もう会えない家族の元へ、一度だけ橋が架かる。
昔ばあさんに聞いた方法で架けた橋は、無機質な木造アパートのベランダの向こうに、浅い海と一緒に現れた。

踏み入ると、橋はどこまでも長く続いて、水面は家族との古い思い出を、ひたひたと波うたせていた。
これほど老いてから、こんな風に試すことになるとは思わなかった。けれどどうしても、一目会いたかった。
そうして歩いた先、最後の家族の姿が見えた。

「変わっていないな。昔のままだ」

そこにあったのは、在りし日の私の実家だ。
十五年前に取り壊されたそれは、背比べの柱の傷も、顔に見えた和室の鴨居も、隠し通した裏口の壁穴も、全てがあの日々のままの、私の生まれた家だった。
もう二度と会えないと思ったその柱へ触れ、小さくただいまを告げる。その声に、家は懐かしくて温かい匂いをぶわりと返し、静かに私を抱きしめた。
ファンタジー
公開:18/12/07 19:37
更新:18/12/07 23:54

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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