岩崎…

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 駐車場の白線を上書きするように敷かれた国道の傍の空き地で、私は女の子と見つめ合っている。女の子の睫毛から水が滴る。私はたまらなくなって、閉鎖したビリヤード場の扉を蹴破り、錆びた階段を駆け下りる。
「彼女はその後、幸せな結婚をする」
 というテロップが5秒間、顔の前をチラつく。
 曲がりくねった砂利道を山蛭に悩みながら駆け下りる。錆び色の水が岩を滴り、滝が進路を塞ぐ。だが、躊躇している時間はない。
 銃声!
 水面が激しく波立っている。メドレーリレーだ。私はアンカーで、最下位からのスタート。トップは20メートル彼方…
 みんなは諦めていた。私は飛んだ。空中を20メートル、着水して惰性で5メートル。クイックターンから潜水のままゴール。ダントツ一着。優勝。
 だが、私の泳法は、昨日から規定違反になった、と内部告発されるし、あの空き地の少女は、岩崎恭子さんだった気もしてきて、とても複雑な気分だ。
ファンタジー
公開:18/12/06 12:05

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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