おじいちゃんの将棋盤

16
22

お盆になると、おじいちゃんの家のえんがわにはいつも将棋盤がある。
「まだ勝負の途中でな」
「誰と?」僕がきくとおじいちゃんは「ライバルさ」と笑った。
おじいちゃんとそのライバルは将棋の勝負のとちゅう、ちょうへいされて戦争に行ったんだ。
おじいちゃんは帰ってこれたけど、ライバルは帰ってこなかった。
でもおじいちゃんは信じてるんだ。
ライバルがいつか帰ってくるって。
帰って来たら勝負の続きをするために将棋盤の駒はその時のままなんだって。
「負けた方が好きな人をあきらめるって約束でな。あいつが『王手』をかけて、わしはずっと『待った』のままなんじゃよ」
おじいちゃんが遠くを見て言った。
「ご飯ができたわよ」
おばあちゃんの声がした。
おじいちゃんの好きな人ってのはきっとおばあちゃんだ。
おじいちゃんが負けちゃうと困るから、将棋盤の前に座っているやさしそうなお兄さんのことは言わないでおこうと思う。
ファンタジー
公開:18/12/06 07:02
更新:18/12/06 20:03

杉野圭志

元・松山帖句です。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容