阿寒湖

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マリさんは泥棒だ。きっと世界一の泥棒だ。
僕は一人で阿寒湖に来た。マリさんには帰りの予定だけ知らせて、行き先は告げなかった。一人で決めて出かけたかったんだ。
「阿寒湖ってアイヌ語で何て言うんですか?」「アカンだよ」
そんな間抜けな会話をお土産屋で交わした。一人旅は恥をかいたって自由だ。出会う人が皆んな新しい。空気が澄んで冷えている。呼吸をする度に僕は新しくなっていく。
マリさんの事ばかりを考えていた日常を離れたかった。誰かを追いかけて、誰かを語るんじゃなくて、自分のことを語れる自分になりたい。
初めての土地の凍える寒さが心地いい。山も水も空も自分ためだけにあるみたいだ。
僕が僕を信じるから、マリさんと一緒にいられるんだ。当たり前のことを心の中で何度か唱えた。
帰ろう。
僕の家は多摩川の岸辺だ。
ファンタジー
公開:18/12/05 22:35
更新:18/12/06 22:12

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