モスクワ

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マリさんは泥棒だ。
マトリョーシカの中に小瓶を詰めて、マリさんが帰ってきた。
瓶の中にはモスクワの風が詰められていると言う。蓋を開けようとするマリさんを僕は止めた。
「12月のモスクワの空気なんて、寒くて無理」
マリさんはがっかりして、小瓶とマトリョーシカを仕舞いかけた。僕はなんとなく悪いことを言った気がして
「じゃあ、外でならいいよ」と言った。
僕らは河原で瓶の蓋を開けた。すると空には灰色の雲が垂れ込めて、川は凍り、景色が一瞬で白くなった。
そしてまた、一瞬で元のさらさら流れるいつもの川に戻った。
同じ世界なのに、まったく違う空間がある。どんな写真よりも説き伏せられる。
「マリさんのおみやげは豪快だなぁ」
「行った気分になった?それとも、これから行きたくなった?」
どっちかなぁ、と僕はぼんやり応えた。
自分で新しい所に行けるなら、何処でもいい気がした。
ファンタジー
公開:18/12/02 21:37

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