とある村のお話

12
13

竜は毎年村をなめるように通りすぎていく。白い竜の出現で、村は1年の終わりが近いことを実感する。それは最早一種の風物詩であった。全長3kmほどある竜は体が透け、実体はない。出現は1年に1度。秋の終わり、夜がうんと冷えた次の朝。

竜の頭を見た人は今この村にいない。故に本当にそれが竜か分からない。全ては書物が伝えるところである。つまり村人達は巨大な胴体を見ているが、それが何か分かっていない。

…僕以外は。

今年も竜の白い体に包まれ、僕は靄の中にいる様だった。そしてその声を聞いた。繋ぐ者として。

「小さい者よ、今年も約束は果たされた」

竜は言った。
僕は丁重にお礼の言葉を述べた。

毎年竜は土の中の種子達に安眠を約束する。種子は生き抜く力を得、次の年、一斉に顔を出す。この秘密を村人達は知らない。飢饉以降、村の歴史に残らない所で、僕たち繋ぐ者と竜との約束はこの村をずっと守ってきたのである。
その他
公開:18/12/02 13:37

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容