小便器の男

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 東蒲田駅の男子便所から行列がはみ出していた。出て来る人はみなニヤニヤしながら自販機で水を買い、それを飲みながらまた、列の後ろに並んでいた。
 我慢して行列に並んでいると、その行列が、一番奥の小便器のためのものだと分かった。俺は行列を離れ、別の小便器に向かった。そのとき、一番奥の小便器の中の男と目が合った。
 男は、髪が薄く背広姿で眼鏡。汚い鞄を抱えて小便器に嵌り込んでいた。
 行列の男たちは、男に向かっておしっこをしていたのだ。
 俺がゾクリとすると、そいつはニヤニヤして「あなたにも見えるんですね」と言った。
 トイレを出るとき、鏡の中の俺の顔はニヤニヤしていた。水を買って行列に並ぶ。
 男におしっこをかけながら俺は「替われよ」と言った。男はニヤニヤしたまま立ち上がると、俺に鞄を押し付け、「くっせー」という声に送られて出て行った。俺はニヤニヤしながら鞄を抱え、小便器に体をにじり入れた。
ホラー
公開:18/12/04 13:45
更新:19/05/28 11:40
54文字の物語のリライト シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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