毒のない世界

人はいつか必ず死ぬ。
早いかもしれないし、遅いかもしれないが、なんにせよほんの100年後には今いるほとんどの人間が死んでいる。
死という毒は、生まれ持って体を蝕む運命なのだ。


「うーん、SF設定か。その点はまあ、いいんだけどさ。
そもそも、この主人公も、ヒロインも………日常を正気で過ごしていられるわけがないだろう。
たった100年で必ず死ぬ運命を持つなら、もっと普段からおどおどしたり、悲しそうにして、少なくとも笑顔は浮かべないんじゃないか？その点、この物語には現実味がないね。てことで、書き直しで。」

編集者が原稿を突き返す。
先週パーツを取り替えたばかりの僕の心臓は、静かなモーター音を立てて駆動していた。