ミスプリント

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予算概算決算。
こんな印刷をしたくてプリンターになったわけじゃない。
私は活版大学を卒業して財務省に納入された。複合機全盛の時代にあえて活版印刷を学んだのは、父が活版機だからだ。鋳物でできた判子状の一文字一文字を丁寧に並べて、かっぱんと印字する武骨さに憧れた。
母はかつてプリントクラブだった。
父はそのクラブに夜毎通い続けて、ふたりは結ばれた。
姉と私と弟は、いわば印刷の子だ。インクの中に私たちの絆はある。
しかし、姉が陸上選手の道を選んだことで私たちのインクは薄まった。
弟は3Dプリンターとなって言葉を捨てた。母はネットプリントに負けて廃業した。
姉はその鍛えた足で私たちから遠く離れていった。
思えば姉が進路に悩んでいたとき、私たち家族は姉に印刷しようとしなかった。
あのとき、プリントとスプリントは違うよ、そう伝えていれば。
後悔謝罪改竄。
最近の私はそんな印刷ばかりだ。
公開:18/12/03 17:57
更新:18/12/30 18:50

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