長い散歩
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6年、もう7年前か。
うちの犬が、突然姿を消した。
親戚に不幸があった最中で、気付いたのは夜半過ぎ。穴の弛んだ首輪が、綱に残ったまま地面に伏せていた。方々手を尽くしたものの、行方は判らずじまいだった。
最後に散歩したのは祖母だ。忙しさに苛立ち、「面倒だ」と愚痴をこぼした。自分を責める祖母に、家族間でその話題は禁句になった。――実際そうかも知れない。頭は悪いが、気の優しい奴だった。しかしそれは、口にしてはならない事。
酷い話だ。13年暮らした家族を、私達は1月で葬り去った。
長い散歩に出ている。
人が尋ねれば答えた。免罪符の様に答え続けた。
先日、ふと転機が訪れ、机に隠した首輪を出した。
色褪せた輪っかを撫で、ようやく呑み込めた。
――ああ、長い散歩は、終わったんだ。
雪が降る前に、うちの墓に入れよう。お盆と彼岸は、お参りに行くから。
でも、あと少し。
あと少しだけ、泣いてもいいかな。
うちの犬が、突然姿を消した。
親戚に不幸があった最中で、気付いたのは夜半過ぎ。穴の弛んだ首輪が、綱に残ったまま地面に伏せていた。方々手を尽くしたものの、行方は判らずじまいだった。
最後に散歩したのは祖母だ。忙しさに苛立ち、「面倒だ」と愚痴をこぼした。自分を責める祖母に、家族間でその話題は禁句になった。――実際そうかも知れない。頭は悪いが、気の優しい奴だった。しかしそれは、口にしてはならない事。
酷い話だ。13年暮らした家族を、私達は1月で葬り去った。
長い散歩に出ている。
人が尋ねれば答えた。免罪符の様に答え続けた。
先日、ふと転機が訪れ、机に隠した首輪を出した。
色褪せた輪っかを撫で、ようやく呑み込めた。
――ああ、長い散歩は、終わったんだ。
雪が降る前に、うちの墓に入れよう。お盆と彼岸は、お参りに行くから。
でも、あと少し。
あと少しだけ、泣いてもいいかな。
その他
公開:18/11/30 20:48
20年分、ありがとう
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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