お母さんのにおい

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小学校のインフルエンザ予防接種。
列に並んでびくびく待ちながら、(うわぁ、泣いてる子もいる……)消毒薬の臭いに顔をしかめた。
「このにおい、きらい?」
後ろの子が、肩をすくめる私に訊いた。
「え。……うん」
「ぼくはきらいじゃない」
「どうして?」
「おかあさんのにおいだから」
つんと鼻にくる臭いと、ミルクみたいなお母さんの匂いが重ならず、ぴんと来なかった。
「びょういんにいるんだ、おかあさん」
消毒薬の臭いも、先生や看護婦さんの声も、他の子の声も遠くなった。
最後の二人だった私とその子は、黙りこくって注射を受けた。


「ほぉ~ら、泣かないの」
例によってこのシーズンが到来した。
泣きわめく子供達の列を前に、マスク越しに笑いながら、注射器をかまえる。
「はい、すぐ終わるからね?」
脱脂綿から、つんと消毒薬の臭い。
(……お母さんのにおい)
私の子供達も、最近では、夫と同じ事を言い始めた。
その他
公開:18/11/30 19:33

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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