ゆずれない理由

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会社で事務の柚木さんが、自家製の柚子を配っていた。(押し付けていたと言った方が正しいが)
ピンポン玉サイズで、所々青く、味は期待できそうにない。
「今年は豊作で」
(つまり、引き取り手が尽きたな)みんな曖昧に笑って分配する。1週間後は風呂の湯船かゴミ箱だな。僕もノルマ2個を鞄に放り込む。
「もらっていいすか?」
ぼそりと低い声で、後輩の梅野が手を出した。
(あいつ、酸っぱいの苦手なんじゃ……?)半分余った柚子を、梅野は袋ごと引き取った。黄色いピンポンを山盛り提げた奴の足は、普段より速く見えた。

翌週、梅野が大量の瓶を連れてきた。
蜂蜜色のジャム。みんな我先に手を伸ばした。作る手間を知ってる僕は、ためらいつつ1瓶取った。梅野は柚木さんには2瓶渡した。

家に帰って蓋を開ける。裏にお歳暮のしが貼ってあった。
(……野郎)
勘だけど、柚木さんのには貼ってないな。
1さじ食べた。中々美味かった。
その他
公開:18/12/02 09:58

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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