夜の海における心理学的考察

人の精神は心理学上、海に比喩されるが、殊に夜の海こそ、それを表現するに最適ではなかろうか。
数多の微粒子で構成され、各々個であり、集合体として全である。時に荒れ、時に凪ぎ、絶え間なく弛みなく表情を変える。内部は闇に秘され、視覚的に暗く澱んだ塊に過ぎないが、音や匂い、水温、波動により、渦巻き揺蕩う自我を実は能弁に伝播している。

――と、折しも夜の海を前に、格好付けて小難しく一説打ってみたけれど。ご理解ご賛同を得られない様だし、簡潔平易に解説し直そう。
つまるところこれは、現在二人で夜の海を眺めている状況で、私が君に何を伝えんとしているか察して貰えまいかとの願望と、それに対する君の返答を伺いたいと、遠回しな告白だった。
のだが……。

二人きりの夜の海にお誘いし、承諾を頂いた時点で君、答えなど自ずと明らかであろう。先程からの君の無言は、要約するならそうした理由だね。

ああ、全くその通りだ。