身寄り

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無口な男に連れられてここに来た。十分な説明はなかったが、おそらく僕と同じように身寄りのない人が集められた場所だろう。
男の手で扉が開けられた瞬間、眩しさに一瞬目を細めた。部屋に一歩踏み入れた僕を、数十人の人が笑顔で迎えてくれた。
「よく来たな」と日に焼けた男が拍手する。「いい男じゃん」と髪の長い女性が微笑み、「待ってたよ」と恰幅のいい男が手まねきする。
戸惑っていると、高齢の上品な女性が僕の背に細い手を添えて「私たちを家族と思ってね」と声をかけてくれる。
家族。
親兄弟の記憶もなく孤独だった僕に初めてかけられた言葉だった。
思わず溢れた涙を拭う僕の背中を撫でながら、女性が中に導いてくれた。

人の気配がないはずのこの部屋に入ると、なぜかいつも空気がざわつく。
住職は手に持った無縁仏の骨壷を、空いたスペースにコトリと置いた。
そして深い敬意とともにしばらく手を合わせ、納骨堂の扉を閉めた。
ファンタジー
公開:18/11/28 22:22

ケイ( 長野 )

ショートストーリー、短編小説を書いています。
noteでも作品紹介しています。​​
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テーマは「本」と「旅」です。

2019年3月、ショートショートコンテスト「家族」に応募した『身寄り』がベルモニー賞を受賞しました。(旧名義)
2019年12月、渋谷TSUTAYAショートショートコンテストに応募した『スミレ』が優秀賞を受賞しました。
2020年3月、ショートショートコンテスト「節目」に応募した『誕生会』がベルモニー賞を受賞しました。

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