留守

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マリさんは泥棒だ。
これからしばらく帰れなくなるとマリさんが言った。僕は自分の身体がすっと冷えていくのを感じた。
どこにいくの?何をするの?いつ帰ってくる?訊きたいことは沢山あるけれど、言葉を飲み込んだ。
「インドに大きなダイアモンドを盗りに行ってくる。帰りは一ヶ月後」
「嘘だ」とわかった。泥棒のマリさんが、盗む前に目的や場所を口にするはずがない。
「わかっちゃった?そうだよ、嘘。でも、帰って来るのは本当」
僕はここのところ何故かずっと淋しい。マリさんがいても淋しいのに、いなくなったらもっと淋しい。
「最近淋しくて」とマリさんが言った。意外だった。
「これまでは淋しくなかった。一人でいるのが当たり前で、淋しいって気持ちがわからなかった。だけど、今は一緒にいてくれる人がいるから、一人になるのは淋しい」
それでもマリさんは出かけていく。
僕は追いかけない。僕はここで僕の日常を重ねる。
ファンタジー
公開:18/11/29 13:18

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