風信子と月詠
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墨を磨る。
居待の月を浴びながら、淡々と墨堂を往復させる。
滑らかな光沢を湛え、黒い水が池に満ちていく、、、とぷん。波紋を打った闇に月影が棲む。墨の香に紛れ、一抹の煙が隣室から漂う。私は冷然と粛々と墨を磨る。
硝子瓶に、掌大の月が載っている。
薄茶けた表皮を突き破って張り巡らされた月の根は、それ自体が本体であると言わんばかりに、煌々と、白々と、超然と、硝子水球の中に漂い絡み合って、半透明の線維網を形成する。
夏の硯ヶ池から汲み出された神の水は、月齢十八の風信子と同じく、私の筆先にも命を吹き込むだろうか。
畳に広げた白木綿の、まだ覚束ない縫い目に、透き通った半月が朧に揺れる。
――もっと深く。
――もう少し濃く。
筆を下ろす決心の付かぬまま、私は闇を滑らせる。
音の無い何かに抗う様に、閉じた部屋で墨を磨る。
水に宿る月詠が、硝子越しに私を視ている。
居待の月を浴びながら、淡々と墨堂を往復させる。
滑らかな光沢を湛え、黒い水が池に満ちていく、、、とぷん。波紋を打った闇に月影が棲む。墨の香に紛れ、一抹の煙が隣室から漂う。私は冷然と粛々と墨を磨る。
硝子瓶に、掌大の月が載っている。
薄茶けた表皮を突き破って張り巡らされた月の根は、それ自体が本体であると言わんばかりに、煌々と、白々と、超然と、硝子水球の中に漂い絡み合って、半透明の線維網を形成する。
夏の硯ヶ池から汲み出された神の水は、月齢十八の風信子と同じく、私の筆先にも命を吹き込むだろうか。
畳に広げた白木綿の、まだ覚束ない縫い目に、透き通った半月が朧に揺れる。
――もっと深く。
――もう少し濃く。
筆を下ろす決心の付かぬまま、私は闇を滑らせる。
音の無い何かに抗う様に、閉じた部屋で墨を磨る。
水に宿る月詠が、硝子越しに私を視ている。
ファンタジー
公開:18/11/26 23:58
立山の硯ヶ池の水と
水栽培の風信子(ヒヤシンス)
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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