夢の中での妻

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 小学校4年生の時に同級生だった女の子と結婚している夢を見た。当時の彼女はなんともいえず馬鹿な子で、とりたててかわいくもなかった。
 それ以来、一度も会っていないが、夢の中ではきちんと成長していて、僕という駄目な男の世話をかいがいしく焼いてくれていた。
 それがたまらなく苦痛だった。
 巨大な百貨店の前に大きな木があって、そこをよじ登る僕を、夢の中の妻は、向かいの空中歩廊から心配そうに見ていた。そして七階の家具売り場に侵入した僕は、無数の黄色い箱に、片っ端から手を突っ込んでいた。
 その後、夢の中の妻と、廊下でお茶を飲んだ。そこからの記憶は曖昧だ。
 ただ、とても嫌な夢だったという印象と、夢の中の妻の愛らしさだけが残っていた。
 今、彼女がどこに住み、誰と結婚しているのかは知らないし、夢に出てきたからといって、知りたいとも思わない。
 ただ、目覚めたとき、両手が物凄くバニラ臭くなっていた。
恋愛
公開:18/11/26 19:29

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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