書を嗅いで町を見よう

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カチャリと音がした。
目覚めると俺の中で何かが変わっていた。

ああ、なんて事。視覚と嗅覚が入れ替わってる。
匂いが目に見え、風景が匂うのだ。ややこしい。
だが、要は慣れだ。
器官が無くなったわけじゃあない。
まず俺は、途中でうっちゃっておいた小説を鼻で嗅いでみた。
するとどうだろう。じわじわと文字が匂い出し、意外と悪くない内容だと気が付いた。目で見るより、鼻で見る方が感覚的で面白く感じるようなのだ。
今度は庭に出て匂いを見てみた。草花や土の清々しい匂いが、複雑な色や形で目を通して見えてきた。
「なんて綺麗な匂いだ!」
匂いを見るのが、ここまで分析的に感じるものかと関心した。

そんな状態にも慣れ、日常生活に全く支障が無くなった頃、またまた、カチャリと音がした。
「やれやれ、やっと元に戻ったかな」
と目を開けると、今度は音が目に見え、匂いが聞こえ、風景が匂ってきた。
ああ、ややこしい──。
ファンタジー
公開:18/11/27 13:37
更新:18/11/27 14:33

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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