竜安禅師取材メモ 7/15 便所

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 朝の石庭に風が吹き、端然と座る疑天竜安禅師の行灯袴の裾がなびいた。私が、「お庭が永遠を表すのなら、永遠とは乾いたものなのでしょうか?」と尋ねると、禅師は油塀を柔和に見遣ったまま言った。
 まもなく三島という辺りで、私はトイレに立った。だがトイレの中から声が聞こえた。
「この世の永遠なるものの標本に似せた紛い物の過ぎ去った後の残り滓ということであれば、あるいは」
 この言葉は私をソワソワさせた。
 確認してみたら鍵は開いていて、ノックに返事もない。私は扉を開けた。無人だ。だが便器には下痢便が残っていた。私は何故かそれを凝視しながら、水を流す釦を押した。
 その直後、轟音とともに背後から大量の水流が押し寄せた。庭もろとも水没した禅師と私とは、黙って水流を見ていた。水は油塀の一角から抜けていった。
 水が呵々と止まると、眼前に石庭があった。
 私はもう一度釦を押して、便器内の石庭を押し流した。
ファンタジー
公開:19/02/20 13:07

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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