正三角形の空が暮れていく

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 朝日のあたる食卓で、Nさんが「また見てる」と言った。僕は、首を左に捩じって天井を見ていた。
「癖なのね」
 僕は、右手の甲にある引っ掻き傷の痕を見せた。Nさんは傷痕をさすってくれた。
「癖と関係がある傷?」
「うん。空地に正三角柱の看板があった。脚元には頭が通る程の隙間があって、僕は仰向けに、身体を折り曲げながら入った。中は狭くて「気を付け」でいるしかなかった。この傷は、鼻を掻こうとした時、釘に引っ掻けたんだ。出ようと思った。でも脛でつかえてしまう。僕は疲れて看板に凭れた。そしたら看板全体がのめった。僕は踏ん張った。看板を倒したくなかったんだ。踵から足を出してみた。ふくらはぎまでしか出せない。苦しくて、唯一動かせる首を、ぐるぐる動かしてた。正三角形の空が暮れていくのが見えた」
 Nさんが背後から抱きしめてくれた。
「それで、どうやって出たの?」
「覚えてない。ねぇ、僕は出られたと思う?」
ファンタジー
公開:19/02/18 09:22

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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