思い出チョコレート

母からバレンタインに「思い出チョコレート」を貰った。実物は初めて見るが、巷で高級だの感動的だのと話題の逸品だ。

なんでも、それを食べて目を閉じている間は“会いたい人”に会えるのだそうだ。

バレンタインの時期にしか売られていないそのチョコレートは、とある技術団体が抽選販売のみ行っているという。母はいつの間にか申し込みをしていたらしい。

物は試しで、目を閉じたままパクリと口に含む。ビターな苦味を含んだ味わいだ。

味がじんわりと口内を包む。
すると、人影が見えてきた。

「…あ。」
祖母だ。

すぐに分かった。こちらに向かって手を振っている。少し離れたところに、大好きだった、あの、祖母が。


“ガンバレ”

声を聞き取れたわけではなかった、しかし唇の動きはそう言っていた。自分の中で音声が響き渡る。記憶が、音声をつくりあげて。


口の中には苦味が残ったが、どこか優しい味にも感じた。