われ恋ひめやも

紫草のにほへる妹を憎くあらば

貴方の好きな歌だった。
『相聞歌より、片恋歌よね』
『……うん、そうだよ義姉さん』
二呼吸分の沈黙に、呑み込んだ感情が何だったか知ってた。
私も同じ気持ちだったから。

あかねさす紫野行き標野行き

追い掛けてばかりの恋を、引きずって、引きずって、結婚しても引きずり続けて、疲れちゃった。
窓の外はしんと凍って、予報は夜から雪ですって。
積もるかしら。降り続けて、うんと積もって、全部全部真っ白に埋もれてしまえばいい。

――ごめんなさい。こんな三角形、結局誰も報われないのに。
優しい貴方を巻き込んで、苦しめて、利用してまで手に入れて。

人妻ゆゑに　われ恋ひめやも
『妻』って肩書だけじゃ、満足出来なかったの。

『さようなら。ずっと愛してた』

未送信のまま残して行くわ。
あの人も、これで少しは私を見るかしら。
最後の最期くらい、貴方じゃなく、私を見ればいい。